即日高収入
当時、仕事を辞めたばかりだった。
貯金も少なく、次の仕事も決まっていない。
家賃の支払いが近づいていて、本気で焦っていた。
そんな時、SNSで見つけた。
「即日5万」
「受け取るだけ」
「誰でもできる簡単案件」
今思えば、完全に怪しかった。
でもその時は、とにかく金が欲しかった。
DMを送る。
すぐ返信が来た。
相手は「田中」と名乗っていた。
アイコンは普通の男。
文章も丁寧だった。
仕事内容を聞くと、
「荷物を受け取って運ぶだけ」
と言われた。
しかも、
「リスクはない」
「危ない仕事ではない」
を何度も強調してきた。
指定されたのは都内のビジネスホテル。
深夜十一時。
部屋番号だけ送られてきた。
正直かなり怖かった。
でも、このまま金がない方が怖かった。
ホテルへ向かう。
指定された部屋の前に立つ。
ノック。
中から男が出てきた。
三十代くらい。
帽子とマスク。
部屋の中には段ボールが大量に置かれていた。
男は目も合わせず、
「これ、指定場所へ」
とだけ言った。
段ボールは思ったより軽かった。
運ぶだけなら本当に簡単だった。
指定されたコインロッカーへ入れる。
写真を撮る。
送る。
数分後、口座へ五万円振り込まれた。
本当に金が入った。
そこから感覚が狂い始めた。
二回目。
三回目。
やることは同じ。
荷物を受け取って運ぶだけ。
質問は禁止。
詮索もしない。
ただ、それだけ。
でも徐々に違和感が増えていった。
ある日、運ばされたバッグから、小さい電子音が聞こえた。
「ピッ……ピッ……」
怖くなって中を確認しようとした瞬間、スマホへ連絡が来た。
『開けるな』
その一言だけ。
背筋が凍った。
それでも金は必要だった。
続けた。
数週間後。
仕事の内容が変わった。
「受け子をやってほしい」
知らない老人宅へ行き、現金を受け取るだけ。
完全にアウトだと思った。
断ろうとした。
するとすぐ電話が来た。
初めて相手の声を聞いた。
若い男だった。
「もう無理っすよ」
笑いながら言った。
「顔も住所も免許証も全部あるんで」
その瞬間、理解した。
最初の時点で、身分証を送らされていた。
逃げられない。
怖くなった。
だが、それ以上に異常だったのは、その後だった。
指定された家へ向かう。
インターホンを押す。
出てきたのは、七十代くらいの女性。
怯えた顔だった。
「息子さんの件で……」
マニュアル通り話す。
女性は震えながら封筒を持ってきた。
その時だった。
奥の部屋から男の声が聞こえた。
「母さん、誰?」
空気が変わった。
女性の顔色が一気に変わる。
「帰って」
小さい声だった。
次の瞬間、奥から若い男が出てきた。
女性の息子だった。
全部バレた。
逃げた。
全力で。
後ろから怒鳴り声が聞こえる。
その夜、知らない番号から電話が来た。
「なんで逃げた?」
低い声だった。
「迷惑かけたよな?」
その後、毎日電話が来た。
深夜。
非通知。
無言。
ある日、自宅アパートへ帰ると、ドアノブにコンビニ袋が掛かっていた。
中を見る。
自分の免許証のコピー。
そして写真。
遠くから撮られた、自分。
駅。
スーパー。
自宅前。
最後の一枚。
部屋の窓越しに撮影された、自分の寝顔。
裏に手書きで書かれていた。
『次はちゃんとやろうね』
怖くなって警察へ行った。
だが、自分も加担していた以上、簡単には被害者になれなかった。
事情聴取。
携帯解析。
その後、組織は摘発されたらしい。
ニュースにもなった。
でも、捕まったのは下っ端ばかりだった。
自分へ指示を出していた「田中」は最後まで見つからなかった。
それから半年後。
別の県へ引っ越した。
電話番号も変えた。
SNSも全部消した。
もう関わりたくなかった。
でも最近、また知らない番号からSMSが来る。
内容は毎回同じ。
『仕事、あります』