山奥の集落
知り合いの話。
仕事で山間部を回ることが多かったらしい。
その日もナビを頼りに山道を走っていた。
だが途中で道を間違えた。
気づけば、舗装されていない細い山道へ入っていた。
引き返そうにも、道幅が狭くて難しい。
仕方なくそのまま進んでいると、小さい集落が見えた。
古い木造家屋が並んでいる。
人の気配はない。
でも妙だった。
全部の家の玄関前に、同じものが吊るされていた。
白い布。
細長い人型みたいな形。
風もないのに揺れている。
不気味に思いながらも、ナビ確認のため車を止めた。
その瞬間だった。
後ろから窓を叩かれた。
「コン」
飛び上がるほど驚いて振り返る。
老婆が立っていた。
いつ現れたのか分からない。
異様に細い。
白髪。
真っ黒な服。
老婆は窓越しに小さい声で言った。
「早く帰りなさい」
その目が異常だった。
本気で怯えている顔だった。
知り合いは慌てて車を出した。
バックミラーを見る。
老婆がまだ立っている。
その後ろ。
家々の窓から、人影がこっちを見ていた。
全員、動かない。
山を降りたあと、コンビニで地図を確認した。
だが、その集落が載っていない。
不思議に思い、地元の店員へ聞いた。
すると店員が嫌そうな顔をした。
「そこ、昔なくなった村ですよ」
昔、土砂崩れで全滅した集落があるらしい。
しかも特徴が一致していた。
白い人形。
あれは死者が増えないように吊るす風習だった、と。
知り合いは笑いながら話していたけど、最後だけ真顔になった。
「でも一番変だったのはさ」
「車、泥だらけだったんだよ」
「山道走ったからかなと思ったけど」
「タイヤに、人の手形みたいなのが大量についてた」